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幽霊西へ行く(日语原文)-第20章

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「金をくれないなら、親父《おやじ》に恥《はじ》をかかせてやる。大学教授の息子が、強盗《ごうとう》をやったら、新聞は大喜びで書きたてるだろうよ」
 などと、牧子をおどしつけていたらしい。
 子供たちの中で、家に残っているのは、二十一になる娘《むすめ》の節子だけだが、この娘はほかの人間にはあたりがいいのに、継母《ままはは》とはぜんぜんそりがあわないらしい。合性が悪いどころか、犬猿《けんえん》の仲らしく、近所の商店の御用聞《ごようき》きも、この二人が口をきいているところは見たことがないといっているくらいだった。
 そのほかに、この家には、牧子の甥《おい》で、千代田大学文学部の学生、宇野秀行という青年がいる。これがまた、厄介《やつかい》千万な道楽息子で、勉強もそっちのけに撸Г婴蓼铯辍ⅳ长吻挨卧囼Yではカンニングをやって見つかり、無期停学の処分をくった上に、恒弘からは家を出るようにいい渡《わた》されているのを、なかなかいい下宿が見つからないからという口実で、ずるずるいすわっているらしい。
 伯父貴《おじき》がついているから、かるい処分で済むだろう――とたかをくくっていたのに、こんなことになったものだから、自分の悪いことはタナにあげて、恒弘を大いに恨《うら》んでいるらしい。
 ほかに女中が一人いるが、彼女は郷里に不幸があって帰っている。この殺人には明らかに無関係なのだ。
 これだけの予備知識を頭に入れて、警部はさらに細かな取り眨伽巳毪盲俊

    4

 松尾恒弘の死亡推定時刻は、午後八時前後と見られたが、この前後の各人の所在を聞いて警部はおどろいた。この時刻には、家人は誰《だれ》も家にはいなかったのだ。
 牧子は午後からデパ趣驓iき、それからロ丧伐绌‘の映画を見て、九時ごろ帰宅し、夫の死体を発見して、あわてて一一〇番へ急報したというのである。ただ、八時前後のその動静を証明してくれる者はだれもなく、家に帰って来た姿を目撃《もくげき》した者もいないのだ。
 節子はその晩、友人の家へ行っていた。しかし、そこを出たのは七時半ごろで、それから一時間ぐらいは有楽町《ゆうらくちよう》のフ丧互螗咯‘を散歩し、九時ちょっとすぎ、ちょうどパトロ毳‘がかけつけて来た直後に帰って来たというのである。
「こんなことになると思ったら、出かけませんでしたのに……お父さんは、今夜は一人きりのほうがいい、仕事に気が散らないからとおっしゃったものですから……わたくしの気のせいかも知れませんけれど、だれか秘密にお客でも訪《たず》ねて来るので、わたくしがじゃまになるような感じでしたわ」
 眼《め》を真っ赤に泣きはらして節子はいった。
「秘密のお客? それがだれだかは見当がつきませんか?」
「わかりません……」
「でも、どなたも家にいないとすると、お茶も出せないわけですね?」
「父は知らないお方には、紹介状《しようかいじよう》がないかぎり家ではおあいいたしません。ひとりの時は電話のベルが鳴っても出ません。もし、お客さまがあったら、ウィスキ韦颏訾筏工毪膜猡辘袱悚胜盲郡螭扦筏绀Δ俊
 書棚《しよだな》の下の一部が酒棚になっていることは警部もすでに眨伽皮い俊¥筏贰ⅴ譬‘ブルの上には、酒もグラスも出ていなかった。デスクのそばのサイドテ芝毪恕⑺丹筏去偿氓驻い皮ⅳ毪坤堡坤盲俊
 警部は、自分でもしつこいと思ったくらい節子に食い下がったが、この来客の正体については、ぜんぜんわからなかった。玄関《げんかん》の鍵《かぎ》はちゃんと所定の場所にかかってあるが、内側からはエ脲V《じよう》をまわせばすぐに開くようになっている。勝手口の鍵は、牧子と節子が一つずつ持っており、牧子も帰りにはそっちから入って来たのだが、あとでパトロ毪蛴钉啶筏à郡趣摔稀ⅳ饯五Vは開いていたようだったと申したてている。しかし、死体を見てすっかり興奮したことだから、絶対に――とはいいきれないと言葉を濁《にご》した。つまり、来客があったという事実は、積極的に否定も肯定《こうてい》も出来なかったのである。
 宇野秀行は、この事件のことも知らないように、十二時ごろ帰って来たが、その時はへべれけに酔《よ》っていた。六時ごろから、ずっとバ蝻嫟邭iいていたというのだが、八時ちょっと前には池袋《いけぶくろ》のバ虺訾啤ⅳ饯欷槭畷rごろまでは、どこでどう過ごしたかおぼえがないというのである。酔っぱらいに、こういう時間の記憶《きおく》の断層があることは、決して珍《めずら》しいことではないが、この際としては、いかにも不利な条件に摺钉沥筏い胜盲俊
 しかし、いっそう不利な条件は、次男の慶二郎のほうに存在していた。彼はアパ趣摔喜辉冥坤盲郡ⅳ浃悉晔䲡rごろ帰って来て、刑事《けいじ》に声をかけられるなり、一目散に逃《に》げ出したのだ。跡《あと》を追いかけた刑事は、半丁ほど先でようやく彼を捕《つかま》えたが、その洋服のかくしポケットからは、ヘロインの一グラム入りの包みが、五つも発見されたのだった。
 彼が麻薬患者《まやくかんじや》でないことは、医者の眨伽扦工挨摔铯盲郡ⅳ长Δいξ铯虺证盲茪iいていたところから見て、彼はいわゆる麻薬のバイニンとして生計を立てていたのではないかと推定される。しかし、アリバイの追及にも、彼は頑《がん》として答えなかった。
「いくら、おれがおちぶれても、親父《おやじ》は殺しはしない。嘘《うそ》だと思うなら勝手に死刑《しけい》にしろ」
 というのが、彼のふてくされたせりふだった……。

    5

 翌日、大学の方を眨伽拷Y果、新しく二つの事実が判明した。
 恒弘の助手をつとめている木下正直という青年は、最初とても彼にかわいがられていて、松尾家にも足しげく出入りし、節子の結婚の相手にも候補にあげられていたらしいが、最近では、どうしたことか、すっかりその仲が険悪になったということだった。
 横山|刑事《けいじ》がその点をつっこむと、この二十六の美青年は、困ったように答えたという。
「いや、それは学問上の論争からです。いかに先生は先生でも、学問上の信念は曲げられませんから、それでちょっと反対したら、とたんにご機嫌《きげん》を損じたのです」
 それから彼は、その問睿蛴⒄Zまじりで説明したというのだが、百戦|練磨《れんま》のこの部長刑事にも、その論点はさっぱりわからなかったというのだった。犯行当時は、自分のアパ趣钎楗弗蚵劋い皮い郡趣いΔ韦坤ⅳ长欷摔夥e極的な傍証《ぼうしよう》はない。
 それから、ほかの助手たちを眨伽皮い毪Δ沥恕ⅳ浃盲去抓楗隶释蚰旯Pの出所がわかった。つい十日ほど前、井沼波子という女の助手が、恒弘の誕生日《たんじようび》のお祝いとして贈《おく》ったものだというのである。恒弘も上機嫌《じようきげん》で、
「ミス?リップルはえらく年寄孝行だね」
 と冗談《じようだん》をいいながら、さっそくその場でためし書きして見て、
「ほう、僕《ぼく》は今まで万年筆は外国のものしか使わなかったが、カメラとおなじで、国産品もずいぶん進歩したものだ」
 と喜んでいたそうである……。
 これで、万年筆の由来はわかったが、しかし彼が最期にこの一本に妄執《もうしゆう》を燃やしたわけはまだわからなかった。横山部長は、二人の間に恋愛《れんあい》関係があるのではないかと思って、ずいぶん探《さぐ》りをいれたのだが、その結果は否定的だった。人数の少ない研究室で、そういう関係が出来たら、他人に知られないわけはないというのである……。
 それから二日の間、警部は深刻になやみ続けた。指紋《しもん》をはじめ、あらゆる物証は皆無《かいむ》である。不動産を主とする財産は相当なものだから、牧子にも慶二郎にも節子にも、動機はないでもないわけだが、これだけでは、だれが犯人かは指摘《してき》出来ない……。
 難解きわまる事件だったが、加瀬警部には被害者《ひがいしや》が最後に書きのこした「二」という字と、プラチナ万年筆が最後のきめ手になるのではないかと思われた。
 彼は証拠《しようこ》としてとどいているこの万年筆を何時間もいじりまわした。インク入れは、プラスチックの容器につまっているが、そのほかには、これといって変わった特徴《とくちよう》もみつからない。
「弘法《こうぼう》は筆を選ばず、死人は筆をえらぶか」
 と吐《は》き出すようにいいながら、彼はからになったスペアインクの筒《つつ》をぬいて、机の上に投げ出した。
「プラチナ、スペアインク、オネスト六〇、ブル骏芝楗氓
 黄色い文字がくるくると、その眼《め》の前をころげまわったとたん、警部はある秘密に気がついて、思わず椅子《いす》からとび上がった。
「そうだったのか! 犯人は! やっぱり被害者《ひがいしや》はいまわのきわに、最後の力をふり絞《しぼ》って、犯人を告発しようとしていたのか!」


  時計はウソ発見機――犯人当て小説 その三――

    1

 七月五日の朝九時、加瀬警部と横山部長|刑事《けいじ》は、車で渋谷南平台《しぶやなんぺいだい》の一角へのりこんだ。といっても、もちろん新安保条約や岸首相に関係のある事件ではない。
 大賀耕治という神戸の商事会社の社長が、ここにある別宅で殺されたという知らせを聞いてかけつけて来たのである。
「警部|殿《どの》、おあついところご苦労さまです」
 迎《むか》えに出て来た渋谷署の刑事に、
「そちらこそご苦労さん。デモの次に殺しでは大変だねえ」
 加瀬警部もねぎらいの言葉をかけて、
「すぐ現場へ案内してもらおうか」
「はい、少々ややこしい構造の家で、現場は離《はな》れのようになっておりますが」
 刑事《けいじ》は庭を通って、母屋《おもや》と渡《わた》り廊下《ろうか》でつながっている一棟《ひとむね》へ案内して行った。
 一見して女の居間とわかる、いかにもなまめかしい感じの部屋《へや》を通りぬけて、その奥《おく》の寝室《しんしつ》へ入
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